Introduction: 「3DP Fab Challenge」とObjet24の使い方

FabLabShibuyaとして初めてInstructablesに投稿します。今回はFabLabShibuyaが主催した「3DP Fab Challenge」というイベントを通じて培った3Dプリンティングのノウハウをシェアしたいと思います。

3DP Fab Challengeについて

「3DP Fab Challenge」は、参加者にプロフェッショナルユース向けの3Dプリンタ「Stratasys社 Objet24」を3ヶ月間にわたって使ってもらい、他の参加者との交流・情報交換を通じて、3Dプリンターの可能性を実践的に探っていくプロジェクトです。

参加者にはこの期間中、3Dプリンタを活用しながら、思い思いのプロトタイピングをしていただきました。プロジェクトの節目には、一般公開のトークセッションを企画し、プロジェクト参加者でなくとも、3Dプリンティングの未来を予感することの出来るプロジェクトとして展開しました。 このプログラムは2014年2月にスタートし、5月8日に最終発表会を実施しました。

どういう事をしたの?

参加者は次のようなメンバーでした。

全8チームのエントリー:

《企業チーム》オートデスク、plaplax、カブク

《クリエイターチーム》田中ラボタモ(影絵作家)、ファブラボ北加賀屋(大阪)

《アカデミックチーム》東京大学(建築)、多摩美術大学、日本大学藝術学部

3ヶ月の期間の中で、3度の一般参加型イベントを実施しました。

イベントスケジュール

Kick Off MTG :2 / 19 (水) 19:30-20:30 ファブラボ渋谷にて実施

1st 3DP Night :3 / 13 (木) 19:30-20:30 playroom(渋谷)

2nd 3DP Night :4 / 10 (木) 19:30-20:30 co-lab西麻布

3rd 3DP Night :5 / 8 (木) 19:30-20:30 co-lab西麻布

"1st 3DP Night"では、プロジェクトのゴール目標の発表、"2nd 3DP Night"では、プロジェクトの経過発表、"3rd…"では最終発表行いました。

協力体制

主催:FabLab Shibuya

共催:Stratasys Japan

協力:オートデスク株式会社

Step 1: Step1 : 概要

3Dプリンターの話題性には今も事欠きませんが、そのほとんどはコンシューマー向けの安価な機材についてで、多くの人はプロフェッショナルユースの3Dプリンターにふれる機会がないと思います。まずは今回の主役となるStratasys社 Objet24の概要から解説します。

Stratasys社 Objet24の概要

  • インクジェット方式(アクリル系紫外線硬化型樹脂)
  • 最大造形サイズ:X234mm × Y192.6mm × Z148.6mm
  • 解像度:X600dpi × Y600dpi × Z900dpi
  • 積層厚:28μm
  • 入力データ形式:STL(バイナリ形式)

インクジェット方式は、紙に印刷するプリンターと同じ様に出力ヘッドが左右に往復しながら、プリントするところにだけ樹脂が噴射され、それを一層ずつ積み重ねていくことで造形していくものです。出力ヘッドには噴射されたUV硬化樹脂を固めるためのランプもついており、出力と硬化を同時に行っています。192個のノズルからモデル材(白)とサポート材(半透明)が同時に出力されます。

非常に細かい造形も可能なところがObjet24の大きな強みです。また、造形トレイに入る範囲であれば、複数の異なるデータを並べても安定して出力することができます。上の写真の通り、黄色みがかった白いモデル材と、半透明のサポート材が出力されているのがわかります。

Step 2: 機材の立ち上げ

Objet24の中には本体を動かし、モニタリングするための専用のWindows PCが、ホストコンピュータとは別に組み込まれています。1台のモニタから動かすにはスイッチャーなどがあると便利です。機材の立ち上げはまず本体のWindowsを立ち上げ、「Objet24アプリケーション」を立ち上げます(写真上)。

Objet24アプリケーションからは造形開始の指示をあたえたり、樹脂材の残量をはじめとする機材の状態を確認したり、ユーザーメンテナンスを行ったりします。

Step 3: Objet Studioを立ち上げる

本体のObjet24アプリケーションが立ち上がったら、ホストコンピュータのObjet Studioを立ち上げます。Objet Studioでは主に、3Dデータの出力状況を編集します。

Step 4: 3Dデータを読み込む

何はともあれ、まずは出力する3Dデータを読み込みます。画面右側の「造形トレイウィンドウ」上で右クリックし、一番上に出てくる「Insert」をクリックするとファイル選択画面が出てくるので、出力したい3Dデータを選びます。すると、下の写真の様に3Dモデルが配置されます。写真の通り、場合によってはトレイからはみ出していることもあります。

Step 5: 3Dモデルの自動配置

先ほど配置した3Dモデルがトレイからはみ出していたので、出力する位置を決めます。手動で動かすこともできますが、画面上のメニューバー上にある「Automatic Placement」(写真上のカミナリマークのアイコン)をクリックすると自動配置されるので便利です。

Automatic Placementは、特に複数の3Dモデルを出力する際に非常に便利です。ただし、この機能は加工時間が最短になる様に3Dモデルを配置するので、場合によっては出力する向きが変わったりすることもあり、それが好ましくないこともあります。次のステップで3Dモデルの向きやスケールを変える方法をレクチャーします。

Step 6: 3Dモデルの簡易編集

画面左下にいくつかのタブがついたウィンドウがありますが、この中の「R Transタブ」から3Dモデルの向きやスケールを変えることができます。編集したい3Dモデルを選択した状態(モデルが水色表示)で行います。

  • Translate:3Dモデルの出力位置を編集できます
  • Rotate:3Dモデルの出力角度を編集できます
  • Scale:3Dモデルの出力サイズを編集できます

Step 7: MatteとGlossy

Objet24の大きな特徴の1つに、出力モデルの表面仕上げを「無光沢(Matte)」か「光沢(Glossy)」かを選択することができます。写真上の通り、3Dモデルを選択した状態で「Optionタブ」から選択することが出来ます。

仕組みとしては、サポート材がついたところは無光沢に、ついていないところが光沢になります。無光沢で出力した場合は下の図の通り全面に薄くサポート材がついた状態で出力されます。逆に光沢で出した場合でも、下の図の「球体」の様な形状の場合、下半分にはサポート材がついてくるので、光沢は上半分のみとなります。またObjet24の特性として、造形物と造形テーブルの間には必ずサポート材がついてくるので、3Dモデルの設置面は必ず無光沢になります。

Step 8: モデルチェック

これから出力する3Dモデルにエラーがないかチェックします。メニューバー上の「Tray Validation」(「!」マークのアイコン)をクリックすると、3Dモデルのエラーチェックを行うことが出来ます。問題がなければ白いままですが、問題がある場合は色が変わります。

色によってエラー内容がわかります

  • 赤:モデルがトレイからはみ出している
  • 青:2つ以上のモデルが重なって配置されている(干渉)
  • 紫:モデルが壊れている

最も頻繁に起こるのは、「紫:モデルが壊れている」になると思います。他の3Dプリンターと同様に、3Dデータに穴があったりすると正しく出力されないので、紫の表示が出た場合はモデリングにミスがないか確認します。

Step 9: 見積り

Objet24は、加工を始める前に加工時間や使う樹脂の量を試算することができます。メニューバー上の「Estimate」(「$」マークのアイコン)をクリックすると、画面左下に表示されます。上の写真の場合、モデル材:20g、サポート材:10g、加工時間:1時間18分と出ました。

Matte / Glossyの設定や3Dモデルの向きによって、加工時間やサポート材の量は変わってくるので、状況に応じて編集します。

Step 10: 出力

ここまでの各種設定で問題がなければ、いよいよ出力です。メニューバー上の「Build Tray」(フロッピーディスクのアイコン)をクリックし、データを送信します。

「Build Tray」アイコンをクリックすると、Objet専用のトレイファイル(objtf形式)が保存されます。このトレイファイルは設定した各条件を保持したまま保存されるので、同じ3Dデータを出力する場合に便利です。もちろん、設定を追加・変更することも可能です。

Step 11:

Objet Studioからデータを送信すると、自動的に写真上のJob Managerが立ち上がります。Job Managerでは主に送信したデータの管理や、Objet24へのデータ転送状況などを知ることが出来ます。

このウィンドウ中央にあるJob Infoが、出力中のデータを表しています。上の写真は造形途中の状態をキャプチャしたものですが、新規に出力をかける場合は以下の中央2行目の状態を確認します。

Send 4 slices of *** slices(上の写真の場合Send 214 slices of 1398 slices)

直訳すると、「トータル***スライスのうち4スライスが送信済み」といったところでしょうか。Objet24は、3Dプリンター本体へのデータ送信と造形を同時に行います。造形を始める前に予め4スライス分だけ送信し、そこから送信と造形を同時並行で行います。データが重たいと最初の4スライスを送るのにも時間がかかる場合があるので、必ず4スライスが送られたことを確認してから次のステップに進みます。

Step 12: 造形開始

モニタをObjet24内蔵Windowsに切り替え、上の写真の様に一番上の表示が「Idle」になっていることを確認し、またプリンターの造形テーブル上が綺麗かどうかを確認します。問題がなければウィンドウ中央左寄りの赤いボタンをクリックすると造形が始まります。造形が始まる前にヘッドやテーブルを暖めるなどの動作(Pre-heating)が入るので、造形が始まるまで時間がかかる場合があります。あとは造形が終わるのを待つのみです。

Step 13: 造形物の取り外し

造形が終わると本体カバーのロックが解錠され、開けることができます。上の写真の通り、造形物はテーブルにしっかり接着されているので、ヘラ等を使って丁寧に取り外します。この時にテーブルを傷つけない様に注意しましょう。

造形物を取り出したら、サポート材の除去を行います。先にも述べた通り、造形物と造形テーブルの間には必ずサポート材がついてくるので、どのような形状・条件であっても少なからずこの作業は発生します。

Step 14: サポート材の除去

Objet24のサポート材は柔らかく、ボロボロと取れていくため除去しやすい状態ではあるのですが、モデルの形状によってはなかなか手間がかかります。また綺麗に除去しないと、「消しゴムのカス」の様な形でいつまでも出てくる印象です。ストラタシス社からは専用の高圧洗浄機も販売されていますが、ここでは手作業での除去について解説します。

このサポート材の除去については3DP Fab Challenge中にも参加者から様々なアイデアが出ました。最もベーシックなやり方は、「大まかに除去したあとは流水で歯ブラシをかける方法」です。他には「造形物を傷つけない程度にプラスチック製のヘラでこそげ落とす方法」や、「水を含ませた“激落ちくん(メラミンスポンジ)”でこすり取る方法」などが試されました。たまたまFabLabShibuyaに超音波洗浄機があったので試してみましたが、こちらは効果がなかったです。

ただ、いずれの場合でもファブラボ北加賀屋チームによる「アッカーマン機構+ベアリング内蔵ホイール(ミニ四駆用・写真下)」の様に、形状が複雑な造形物の場合は手作業で完全に除去するのは難しいようです。

Step 15: 総括

3DP Fab Challengeを通じて、FabLabShibuyaのスタッフとしてもプロフェッショナルユースの3Dプリンターを動かすという貴重な機会を得ることができました。これまでいくつかの造形物を紹介してきた通り、造形精度は非常に高く、データに不備がなければ安定して造形できる安心感も、コンシューマー向けの3Dプリンターではなかなか実現できないレベルでした。

次のステップからは、3DP Fab Challenge中に造形されたものを紹介しつつ、ここまでに紹介しきれなかったObjet24の特徴について解説します(順不同)。

Step 16: ストラタシス社製テストパターン

3DP Fab Challengeに先立ち、Objet24で最初に出力したテストパターンです。高さ方向に薄く突き出ている部分も綺麗に出力されています。ストラタシス社のスタッフさんによると、厚さ0.6mmぐらいまでは安定して立ち上げることができるそうです。

Step 17: ボールジョイント by SAITO, Hayato

異なる大きさで出力されたボールジョイント。手前の一番太い状態でも直径3mm程度なので、いかに細かい造形ができるかがわかると思います。ここには写っていませんが、三つ又形状のパーツもあり、組み合わせ次第で色々な形ができます。

Step 18: 自転車パーツのプロトタイプ by INOUE, Keisuke(FabLabShibuya)

既製品との組み合わせを検証する意味で、自転車のハンドルに取り付けるパーツを制作しました。ハンドルに締め込むためのネジは、予め下穴を空けてモデリング・出力し、最後にタップでネジを切りました。ネジ切り加工は問題なく行うことができ、ネジの締まり具合も上々でした。ただし、モデル材がアクリルベースということもあって、あまり強く締め付け過ぎると割れてしまいます。

Step 19: ミニ四駆用オリジナルシャーシ by FabLab Kitakagaya

このモデルではクオリティ or コストの分かりやすい事例になりました。ここではシャーシの上面を上にして出力しているため、中にはサポート材がびっしり詰まっています。樹脂のコストを考えると上面を下に向けて出力した方が有利ですが、それだとシャーシに光沢が出せなくなります。シャーシはいわばミニ四駆の「顔」なので、この場合ではクオリティを優先しました。

FabLab Kitakagayaのプロジェクトは下記のGithubのプロジェクトページに詳しくまとめられています。

https://github.com/YujiTAKIUCHI/FabVehicle

Step 20: 壁面モジュールのプロトタイプ by 東京大学建築学科チーム

有機的な曲面を展開できるモジュール型壁面のプロトタイプ。建築学科の学生さんらしい発想です。同チームは実物大での再現まで検討していましたが、サイズ・コストの両面で実現できませんでした。このあたりは3Dプリント業界全体の課題になりそうです。

Step 21: ドローイングボット(robotics Studio Workshop)by日本大学藝術学部チーム

「“robotics”をつくりながら考える」をテーマに参加した日本大学藝術学部チームのドローイングボット(プロトタイプ)。今現在、3Dプリンターの使い方として最も理にかなった方法がこうした試作品の制作です。作って初めて見えてくる課題や問題点を即座に反映させ、バージョンアップさせるところに「ラピッド」プロトタイピングといわれる所以があります。

このプロジェクトの進捗は下記のWebサイトで詳しくまとめられています。

http://robotics-studio.tumblr.com/

Step 22: 月面形状のガラス by 多摩美術大学チーム

3Dプリントした造形物から型をつくり、ガラスに置き換えた意欲作です。手作業では不可能な形状を造形するのは3Dプリンターの大きな強みですが、材質は機種に依存してしまいます。この作品では月面のデータから出力した約20cm角の造形物を原型として活用し、今現在3Dプリンターでは扱えないガラスに置き換えています。

Step 23: 影絵作品のための筐体 by 田中ラボタモ

影絵作家・田中ラボタモさんご自身の作品のための筐体です。3Dスキャンした手を出力し、その中に光源を仕込むこと映像が出力されるユニークな作品です。ご本人はこれまで3Dモデリングの経験がない中、初心者でも「絵の具の様に3Dプリンターを使うことはできないか」という発想から参加されました。3Dプリンター、3Dモデリングの話題は今も冷めませんが、より一般化させていく上で、こうした方の目線やアプローチは多くの示唆に富んでいました。